キツネ



 
 私はキツネ大好き人間である。キタキツネ・ホンドギツネ、黒ギツネに

銀ギツネ。

もちろんキツネうどんも好物だが、あの、耳のとがったフサフサの長い尾

の狐が大好きなのである。

 「いつから?」と聞かれると困るが、舞台を見てから・・・という

ことは間違いない。文楽にも狐が登場する演目がいくつかある。

「義経千本桜」「本朝廿四孝」「芦屋道満大内鑑」などだが、

ほとんどが白い狐、白狐である。

 以前、巡業先のデパートのペットショップで狐を見つけた。銀狐だった。

値段は確か五万円だったと思うが、あいにく持ち合わせがなく、旅先と

いうこともあり、あきらめた。後で「狐を飼うのは大変」と聞いたのだが、

それでも狐がほしかった私は、舞台用の狐を誂えることにした。

 自前の白狐である。文楽の舞台で使う狐は小道具扱いになる人形で、

ほぼ実物大に作ってある。その狐が出来上がり、届いた時はとても

うれしくて、すぐに自分で手を加えて遣いやすく改良した。父である

先代勘十郎も「義経千本桜」に登場する狐忠信が好きで、動物園で動き

を研究したそうだが、私も自分なりに工夫して、より狐らしく遣えるよう

に心がけている。

 たとえば「義経千本桜」の狐は、雄の野狐で、佐藤忠信という侍に

化けているので、鋭く機敏に動く。「芦屋道満」の狐は、葛の葉姫に

化ける雌の狐なので、動きの中に柔かさを出す。「廿四孝」では神の

使いとして、どこか神がかった動きが必要となる。狐といえど、それ

ぞれの役柄に合わせての遣い分けがあり、面白い。

 まだ経験してない役の狐も、自分なりの工夫をして是非やってみたい

と思う。人を騙す、化かすと言われる動物だが、文楽の狐たちはみな、

とても優しくて、かわいい。

 北海道で、初めて野生のキタキツネに出会った時の感動は今でも

忘れられない。一瞬、目と目が合い、そこに自分の姿をみたように

感じた。しかし、向こうは「なんや、怪しいタヌキがこっち見とる

なあ・・・」とでも思ったことだろう。

                    桐竹勘十郎