観劇記念スタンプ



 

 国立文楽劇場のロビーに観劇記念スタンプがある。

 文楽の公演がある1月、4月、7月、11月の各月ごとに、その公演

の演目を図柄にしたスタンプを置くのだが、私がこの原画を頼まれたの

は昭和59年、国立文楽劇場開場の年だった。劇場は今年めでたく20

周年を迎えたが、私の原画製作もまた、めでたくはないが20周年とい

うことになる。

 スタンプという名のゴム印は、駅や観光地などでよく見かけるが、そ

れまではほとんど気にもとめなかった。しかし、自分が原画を担当する

ようになってからは、スタンプが置いてあると手に取ったり、押したり

するようになった。だいたい図柄はよく似たものが多く、その土地の風

景や歴史的な建物、祭りなどである。

 私の場合、図柄はもちろん人形なのだが、ただ置いてある人形をその

まま描いても面白くないので、芝居の場面やその役柄がよくわかるよう

に心がけている。

 人形の首(かしら)は表情をあまり出さないように、檜材を彫って作

るのだが、原画ではその時々に少し目や口元に表情を出すことがあり、

衣裳などの模様も実物通りに描きながらも大きさを変えてみたり、直径

8〜10センチにできあがったときことを考えて工夫している。

 しかし、私の悪いクセでどんどん描き込んでしまうのである。原画は

役3倍の大きさで描くのだが、直径が3倍になると、描ける面積は9倍

になる(計算はあってるかな?)。もともと細かい部分まで描くのが好

きな私は、髪の毛、着物のほつれた糸、刀の柄に巻いてある鮫皮のツブ

ツブまで描き込んでしまい、「スタンプ屋のおっちゃん、いやがるやろ

な・・・」と反省するのである。

 160枚の原画を見ると、そのときのことがいろいろと思い出される

。旅先のホテルで酒を飲みながら描いて失敗したこと、移動中の列車内

で描いたこと、締め切りに間にあわすために明け方まで描いたことなど

。締め切りに追われるところだけは、大作家なみかもしれない。

 襲名公演の折、「勘十郎になっても続けてください」の声がうれしか

った。


                   桐竹勘十郎